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  • 2016-02-08

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マーケティングの現場から


【第4回】その判断は正しいか!? 行動経済学の実践

マーケティングは学ぶものでも語るものでもなく、日々の企業活動において実践してこそ意味のあるものです。本連載では、コンサルタントとして活動する現場での事例を基に、マーケティングの思考法を紹介していきます。

直感的にお答えください ―ウォーミングアップ・クイズ

今回もクイズでスタート。二者択一の問題ですので、直感的にお答えください。

Q1)日本一大きい湖、琵琶湖の面積は滋賀県のおよそ何分の一でしょう?

A 4分の1,B 6分の1

Q2) 日本人の死亡原因で多いのはどちらでしょう?

A 肺炎,B 自殺

Q3)独身女性リンダは、とても頭がよくはっきりとものを言う性格です。大学では哲学を専攻し、人種差別や民族差別などの社会問題に深く関わり、反核デモにも参加したことがあります。さて、リンダの職業は次のどちらの可能性が高いでしょうか?

A 銀行の窓口係,B 女性運動を行っている銀行窓口係

では、解答です。 
Q1) B  Q2) A  Q3) A

Q1の琵琶湖の面積(約670㎢)は、滋賀県の面積(約4,017㎢)のおよそ6分の1です。日本一大きな湖という印象的な事実から、実際より大きいイメージを持ったのではないでしょうか。 

Q2の肺炎は、自殺の約4倍です。テレビや新聞などの報道においては自殺を目にするケースが多いので、実際より多く感じられるのです。

似たような例では、少年による凶悪犯罪件数があげられます。近年、増加傾向にあるような報道を目にすることがありますが、実際にはここ9年減少傾向にあり、2014年(703件)には、2005年(1,441件)の半分以下に減少しています。

凶悪犯の推移警視庁生活安全局少年課『少年非行情勢(平成26年1~12月)』 より

Q3は、心理学分野でよく知られる「リンダ問題」です。冷静に考えれば、Bの「女性運動を行っている」は、共通項である「銀行の窓口係」という枠組みの一部分であるにもかかわらず、与えられた情報から勝手に余計な類推をしてしまうという典型例です。

このように、本来情報の処理速度を上げるための脳の機能により、かえって判断を誤らせる事例は多々あります。行動経済学の研究事例に基づき、具体的な応用例を考察して参りましょう。

選択肢は多いほど良い!? ――処理能力の限界値

はじめに、コロンビア大学・ビジネススクール教授シーナ・アイエンガーの「ジャムの法則」という研究を紹介します。

あるスーパーマーケットで、6種類のジャムの試食販売を実施したところ、40%のお客様が足を止めて試食し、30%のお客様が購買しました。

この好評ぶりに気を良くした店長は更に規模を拡大し、24種類のジャムを集めて試食販売を実施したところ、60%のお客様が足を止めて試食しました。

まさに思惑通り…… のはずだったのですが、実際に購買に至ったお客様は僅かに3%。一体、何が起こったのでしょうか。

実は、一般的な人間の判断能力は5~6種類程度であり、それ以上になるとどれが良いのか判断がつかなくなります。すると思考停止状態に陥り、選択肢から除外されることが多いのです。

24種類のジャムは注目を集めるには充分でしたが、どれが良いのか判断がつかないお客様の購買対象品目から除外されてしまったのです。

友人とファミリー・レストランでこの話題になったとき、折しもカレー・フェアを開催中。
メニューを見ると、15種類のカレーが並んでいました。そんなとき、あなたなら何を注文するでしょう?

思考停止に陥った結果、多くの人が別のページのメニューを選ぶはずです。

大切な話は最初にすべきか、後にすべきか? ――限界点を超えると

情報量が多く限界を超えた場合、人は一般的に中間の内容は飛ばして、最初の話と最後の話を強く記憶します。それぞれ、初頭効果と親近効果と言います。

これは、脳のはたらきと関連しており、直後に結論を求められる場合は親近効果(最後の記憶)が強く影響し、結論に日を置いた場合には初頭効果(最初の記憶)が強く影響すると言われています。

その場で購買される家電製品などの場合には、初めに短所も伝えた上で、それを上回る素晴らしさを訴えるという作戦が良さそうです。そういえば、一通り商品を紹介した後「まだあるんです」とメリットを語っておられた社長さん、理に適っていますね。

一方、自動車販売のように、その場で結論が出にくい商談であれば、最初に大きなインパクトを与えて、強烈な印象を与えるのが得策です。

細かい仕様や些末な情報は後回しにして、展示車の魅力を高めるべく最大限に演出を施し、すぐに試乗していただき乗り心地を印象付けるなど、第一印象が肝心です。

ついでながら、第一印象が功を奏して商談成立となれば、ここからもう一工夫欲しいところです。

たとえば、500万円の新車の購入であれば、15万円のカーナビゲーションシステムをおすすめしない手はありません。今所有している車にカーナビゲーションシステムを取り付ける場合の15万円に比べ、心理的ハードルははるかに低くなっているはずですから。

自分で作ると愛着がわく ――巻き込むことで価値が生まれる

現在、成功している小売業の一つにIKEAがあります。価格、物流、生産システム等、成功要因は多々ありますが、その一つが、お客様自ら組み立てるという方式です。

これはIKEA効果とよばれるもので、自ら手を加えたものに対しては、単に完成品を購買した以上に愛着がわき、実際以上の価値があると認識する心理を利用しています。

上手く応用された例としては、具材を加えて煮たり炒めたりするだけの料理用素材があります。材料を別途調達して最終工程を自らの手で行うことで、インスタント食品による手抜きといううしろめたさを払拭し、更に自ら調理したという満足感が加わって、主婦の心をググッと捉えました。

コンサルティングにおいても同様です。事業改善などの計画を立てる際、必ず経営者や現場の責任者と共に行います。どんなに素晴らしい計画であっても、ただ提案しただけでは実行されることはほとんどありません。自ら作り上げた計画だからこそ、実行し、完遂することができるのです。我々コンサルタントは、そのサポートをしているに過ぎないのです。

不良率99%!? ――与えられた数字に惑わされるな

ある精密機器メーカーの不良品の発生率は1万分の1です。同社が新たに導入した品質管理システムは、99%の精度で不良品を特定します。

ここに、同システムにより不良品と判定された製品があります。この時、この製品が不良である確率は何%でしょうか?

品質管理システムの不良品特定の精度は99%なのだから、不良品である確率は99%に決まっている? 

これは、後から提示された不良品判定精度である99%に意識が奪われ、そもそも不良品発生率が1万分の1であるという前提を見逃した結果です。

仮に、同社が100万個の製品を生産した時、1万分の1に相当する100個の不良品が発生するはずです。問題のない製品は99万9,900個となります。

一方、99%の精度を誇る品質管理システムは、100個出るはずの不良品の内99個を正確に判断します。更にこのシステムは、不良品でない99万9,900個の製品の内、1%に相当する9,999個を誤って不良品と判断してしまいます。

その結果、同システムが不良品として判断する数量は、99と9,999の合計である1万98個となります。したがって、不良品と判定された1個が本当に不良品である確率は、
99 ÷ 10098 = 0.009803……
となり、1%にも満たないということになります。

このような例は、保険商品によく見られます。
たとえば三大成人病など、死亡原因の比率を表すパーセンテージが強調されることで、そもそも保険の対象となる死亡する確率が見落とされがちです。

主な死因別死亡数の割合(平成25年)厚生労働省『平成25年 人口動態統計月報年計(概数)の概況』より作成

また、あるクライアント企業に対して、定期的に開催される催事におけるダイレクトメールの効果を測定するために、発送対象者の5%につき発送を取りやめて比較しましょうという提案をしたところ、5%もの売上機会損失は困ると言われました。

果たして、この指摘は正しいのでしょうか。5%というのは、購買すべき対象ではなく、ダイレクトメール発送対象者に対する割合です。ですから、仮にダイレクトメールのレスポンス率が10%(かなり高い数字ですが)であったとしても、実際の機会損失は10%の5%であり、0.5%ということになります。

更に、ダイレクトメールを送らずとも購買される方もいるので、実際の影響はより小さいはずです。そして、この効果測定は、正にダイレクトメールの実効果である、発送コストに対する売り上げの増加を測るものなので、その効果は計り知れません。

こうして得られたデータは、同社の事業戦略の根幹となり、驚くべき精度で結果を予測し、的確な事業戦略を構築することとなりました。

いかがでしょうか。行動経済学は机上の空論ではなく、実際の行動に基づき得られた結果がベースとなっており、マーケティング戦略に応用可能なテーマが多々あります。ぜひ、有効に活用して行きたいものですね。

参考文献:シーナ・アイエンガー著『選択の科学』(文藝春秋,2010年)


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