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  • 2016-01-28

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ITを活用した先端マーケティング戦略


【第4回】2016年、人工知能は実用フェーズに―AIが変えるECのマーケティング

1.遂に実用フェーズに入った人工知能「AI」

多くの皆さんは、「AI」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

「AI」とはArtificial Intelligenceの略で、日本語で言うと「人工知能」ですね。文字通り、コンピューターで人間の脳のような知的な機能を実現しようというものです。

近年、GoogleやIBMをはじめとする多くのIT企業が、巨額投資により研究開発を進めており、現在のIT業界においては常に話題の中心を占める存在になりました。

今回は、このAIの技術進歩の背景について簡単に説明したうえで、eコマース(EC〉におけるAI活用の可能性について、実際の活用例とともにご紹介していきます。

(1) 近年、飛躍的に進歩したAI

近年、AIが飛躍的な進歩を遂げた大きな要因が二つあります。

一つは「ビックデータ」の存在です。

AIが人間のように知識を蓄え、さまざまな状況で判断を行うためには、背景となる膨大な知識をデータとして取り込む必要があります。

現在はインターネットが世界的に発達し、データの流通量が爆発的に増えたため、多くの知識をデータとして簡単に手に入れることができるようになっています。

もう一つが「機械学習」と呼ばれる仕組みです。
これは、コンピューターが自らデータを読み込み、賢くなっていく機能です。

多くのデータがあっても、人間がひとつひとつコンピューターへインプットしていくのでは膨大な時間がかかってしまいます。しかし現在は、コンピューターがさまざまなデータを自動的に取り込み、自らの知識体系を形成していく仕組みが開発されました。

たとえば、読み込んだ大量の文章を統計的に解析することで「沖縄の県庁所在地」と「那覇」の関係性を導き出し、「沖縄の県庁所在地は那覇市である確率は99%」といった情報を、自動でどんどん知識として蓄えていくことなどができます。

この機械学習の仕組みは、現在も更に進化を続けています。

また、今後の可能性が注目されているのが、「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術です。

人間の脳のニューロン(神経細胞)を真似た階層的なコンピューターネットワークにデータを読み込ませることで、自動で画像や音声のデータの「特徴」を抽出・学習し、より人間の脳に近い形で情報を認識・理解することができるという技術です。

この技術により、画像や音声の認識精度を飛躍的に向上させられるといいます。

これらにより、AIは近年、飛躍的に性能を向上させ、ビジネスにおいて実用化に至るまでの能力を身につけることとなったのです。

<図1 AIの飛躍的な進歩>

(2) AIが担う機能

AIが担う機能は大まかに表すと、「認識」「分析・予測」「実行・表現」の3つに分けられます。

「認識」は、さまざまなデータを読み込んでその意味を理解する機能です。文字や文章に加え、昨今は画像や映像の認識精度が飛躍的に向上しました。

音声から意味を認識したり、映像や画像から人物や商品などを識別したりすることも可能です。

「分析・予測」は、認識した大量のデータから全体的な傾向を分析したり、今後想定しうる事象の予測などを行ったりする機能です。

たとえば、設備の故障を検知・予知し、商品の需要予測などへの活用も期待されています。

「実行・表現」は、AIが分析・予測などにより導き出した答えを、言葉や行動として出力する機能です。文章を作成しテキストや音声で情報を伝えたり、最近は人間と会話したりすることも可能となってきました。

2. AIが解決するeコマースの課題とは

(1)AIはeコマースの強力な味方!?

ビジネスにおけるAIの活用は、さまざまな産業や業界などで広がっていますが、その中でも特にeコマースは、AIの導入による大きな効果が期待されている分野です。

それはAIが、eコマースが苦手とする部分を補う強力な味方になってくれるためです。

eコマースがどうしても苦手とする点。それは「顧客とのリアルなコミュニケーション」と「多様化する顧客ニーズへの対応」です。

実店舗をもつ小売では、顧客一人一人と対面で接客し、質問や相談などを通じて顧客のさまざまな要望に細かく対応することが可能です。

一方、eコマースでは非対面での販売となるため、リアルなコミュニケーションを取ることが難しく、顧客の好みや要望を汲み取るための情報が購買履歴などの情報に限られてしまいます。

昨今は特に、消費者が物質的に豊かになり、精神的な満足を求める傾向にシフトしているため、大量消費を前提としたマスコミュニケーションではなく、個別の顧客ニーズに応えるコミュニケーションが非常に重要となってきています。

AIはこれらのeコマースの課題を解決する大きな助けとなります。

これから「顧客とのリアルなコミュニケーション」と「多様化する顧客ニーズへの対応」の課題を解決する、AIを活用したサービスの例をご紹介していきます。

(2)リアルなコミュニケーションを実現するAI活用サービス

AIは従来のeコマースではできなかった、顧客とのリアルなコミュニケーションを実現します。

2015年8月、コミュニケーションアプリの「LINE」は、日本マイクロソフトが開発したAI「りんな」の技術を活用した、人工知能型のLINE公式アカウントを企業向けに提供開始しました。

「りんな」は“おしゃべり好きな女子高生”という設定で、日常会話や雑談など人間らしい自然な会話ができるAIです。

この人工知能型のLINE公式アカウントを活用すれば、eコマースを運営する企業はLINEを通じてAIの「りんな」に顧客との会話や接客を任せることができます。

これにより、企業は顧客と「りんな」との会話内容に応じて、おすすめの商品やキャンペーン情報などを提供することが可能となります。

また、販売後の顧客からの問い合わせに対しても、「りんな」にLINE上で対応させることができるため、人的コストをかけずに顧客とのコミュニケーションが深められるのです。

日本マイクロソフトが開発したAIは、中国では既に大手eコマースとの提携が決まるなど導入が進んでおり、日本でも今後目にする機会が増えていくでしょう。

<図2 一般向けに無料公開されている人工知能「りんな」とのコミュニケーションのイメージ>

(画像引用元:Microsoft「りんな」Webサイト http://rinna.jp/rinna/)

(3)多様化する顧客ニーズへ対応するAIサービス

顧客ニーズを巧みに汲み取り、一人一人の好みに応じた最適な商品を提案できるようなAIサービスも開発・導入が進んでいます。

2015年11月26日、カラフル・ボードは同社が開発した人工知能「SENSY」による、EC接客サービスを発表しました。

「SENSY」はファッションコーディネートに特化した人工知能で、スマートフォンのアプリを通じて顧客との対話を繰り返すことで、顧客のファッションセンスをどんどん学習していきます。

顧客は「SENSY」から提示されたアイテムが好きか嫌いかを選ぶことができ、これによりAIが利用者の好みを学習します。「SENSY」は顧客との会話が進むほど、より感性に沿ったアイテムやコーディネートを提案してくれるようになる、という仕組みです。

百貨店の伊勢丹は「SENSY」を試験的に導入し、おすすめのコーディネートをECサイトで販売する一方で、店頭の来店時にもおすすめのコーディネートを用意するなど、店頭販売とeコマースを融合させたオムニチャネル戦略としての活用を試みています。

ファッションは特に顧客一人一人の好みに左右されやすい分野であり、今後もAIの活用が大いに期待できる分野です。

<図3 期間限定でリリースされる人工知能を搭載したイセタンメンズ専用アプリ>
簡単操作で人工知能を作ってみよう。コーディネートで提案します。

(画像引用元:ISETAN MEN’S Webサイト http://www.imn.jp/post/108057194528)

3. AIの更なる進化とマーケティングの未来

(1)AIによるコンテンツの自動作成

AIの今後の進化の方向性として、マーケティングの観点で私が特に興味があるのが「記事の自動作成」という技術です。

これは、従来ジャーナリストが取材により得た情報をもとに作成していた新聞記事などを、AIが自動で文章を作成して記事化してしまうという仕組みのことです。

アメリカの主要メディアでは、既に導入が始まっています。

米AP通信では、企業の決算発表の記事作成に自動化システムを導入しました。このシステムは、企業が発表した数値などの内容をもとに、100~300字記事程度の速報記事を自動生成してくれる機能です。

こういった仕組みが更に進化していくと、私のように記事を書く側の人間としては、自分の仕事が奪われないだろうか? と少し心配になったりもしますが、一方で非常に興味深い内容でもあります。

AIによるコンテンツ自動作成という技術は、今後のコンテンツマーケティングに大きな影響を与えることが予想されます。

(2)AIが人間の仕事を奪う? AIの未来

AIは今後更に進化を続けることで、2045年には人類の知能を凌駕すると言われています。この、AIが人類の知能を超える時点のことを指す「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉がありますが、シンギュラリティ以後、AI自身が更に優れたAIを発明していく時代が到来するとされています。

<図4 集積回路上のトランジスタ数の推移(イメージ)>

AIの能力が人間を超えるまで進化した未来に関して、「現在の多くの仕事がAIに取って変わられ、人間が不要となってしまう」といった懸念がよく語られています。

私は、「現在の多くの仕事がAIに取って変わられ」という部分までは同意しますが、「人間が不要となってしまう」という点については、そう思いません。

現在の研究開発の延長上では、人間の考えることや行動すべてを代替することは、当面不可能だと言われています。

なぜなら、AIは意思や感情、ビジョンを持つことができないからです。

たとえAIが進化しても、意思や感情を持たなければ人の心を動かすことはできないでしょう。私たちコンテンツを作るマーケターは、人の心をいかにして動かすかを考える必要があり、その仕事は今後もなくならないと思うのです。

人間はAIが得意な仕事をAIに任せ、AIと共存していくことで、更なるスピードや生産性を身につけていくことができると思います。反対に私たちは、AIにはできない付加価値が何なのかを精一杯考え抜いていく必要があるのかもしれません。


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