• 連載
  • 2015-12-15

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マーケティングの現場から


【第3回】価格設定は合理的に不合理に!? 行動経済学の実践

マーケティングは学ぶものでも語るものでもなく、日々の企業活動において実践してこそ意味のあるものです。本連載では、コンサルタントとして活動する現場での事例を基に、マーケティングの思考法を紹介していきます。

行動経済学の概念を知る ――ウォーミングアップ・クイズ

突然ですが、問題です。

コインを投げた時、表の出る確率が2分の1であることは誰しも疑わぬところです。
では、次の問題はいかがでしょうか。

コインを10回投げる際、9回連続で表が出ました。10回目も表が出る確率はどうなるでしょうか。ちなみに、9回連続で表が出る確率は512分の1です。

正解は1,024分の1…… ではなく、もちろん2分の1です。余計な情報に惑わされはしませんでしたか?

つづいて、もう1問。

A、B、Cの3つの箱があり、どれか一つが当たりで賞品が入っています。
あなたはAを選びました。

すると、当たりの箱がどれかを知っている出題者がBの箱を開け、空であることを示しました。そして、あなたに選び直す権利があると告げました。

さて、あなたはA、Cどちらを選ぶべきでしょうか。

直感的に、Aを選んだ方が多いのではないでしょうか。
もしCに変更して、最初に選んだAが当たりだった場合の心理的損失がより大きいと感じたのかもしれません。

しかし、合理的に考えれば、当たる確率はCに変更した場合、Aを選んだ場合の2倍となるのです。

意外に感じたかもしれませんが、これは「モンティ・ホール問題」と言われ、著名な数学者をも惑わせた難問です。

最初の段階ではA、B、Cどの箱を選んでも当たる確率は3分の1です。あなたはAを選んだので当たる確率は3分の1であり、同時に外れる確率(=BまたはCが当たる確率)は3分の2です。

この段階で、Bが当たりではないことが明らかになったのですから、Cの当たる確率は3分の2となるのです。

敢えて「当たる確率は2倍になる」と表現しましたが、「当たる確率は3分の1から3分の2になる」ことを意味しています。

マーケティングの心理学的アプローチ「行動経済学」

行動経済学とは? マーケティングを心理学の面から分析

今回は変則的な立ち上がりとなりましたが、テーマは行動経済学。従来の経済学は、参加者が合理的に判断をするという前提で成り立っていました。

しかし、現実の企業行動や消費者の行動意思の決定においては、必ずしも合理的な判断がされているわけではなく、むしろ先の問題のように、不合理な行動がなされているケースが多いのです。

そこで、意思決定においてどのような心理的影響があるのかを、行動を通じて解明していこう、というのが行動経済学です。

かのマーケティングの大家であるフィリップ・コトラー博士は「行動経済学はマーケティングの異称である」と明言されていました。

マーケティングは行動の結果を分析し、予測していくものです。ですから、行動経済学とは「マーケティングの心理学的アプローチ」というのが実態に近いのかもしれません。

いずれにせよ、2002年にダニエル・カーネマン博士がノーベル経済学賞を受賞したことで
一躍脚光を浴びた、経済学においては比較的新しい分野です。

近年は、脳科学分野からのアプローチであるニューロ・マーケティングとも結びつき、意思決定のメカニズム解明とマーケティング分野への応用について、研究がなされています。

本稿では、さまざまな研究成果を基に、実際のマーケティング活動にどのように応用できるかをご紹介していきます。

プレゼンテーションは順序が大切 ――最初の印象が影響を及ぼす

またまた問題です。次の2つの計算式の答えがいくつになるか、直感的にお答えください。

数字の配列を逆にしただけなので、正解はどちらも「40,320」です。
しかし、問題は正解することではなく、直感でどのように感じたかです。

ある実験結果では、回答の平均の数はAの「2,250」に対し、Bは「512」と大きな差が生じました。

これは、計算式の数字の配列が直感に影響を及ぼし、手前に大きな数字がある場合は回答も大きくなり、同様に手前に小さな数字が並べば小さくなる傾向がある、ということです。

これを実際のビジネスに応用する方法を考えてみましょう。

たとえば、初めに高額な商品を見せ、次第に安価な商品を提案することで、高級なブランドイメージを保ちつつ、お手頃価格の商品を買ってもらうことができるかもしれません。

逆に、最初にシンプルな商品で目を惹き、次第にオプション機能を追加していくことで、スムーズに高額商品のご提案をする、という方法も考えられます。

新しい価値の市場導入 ――価格に納得してもらうための方法

あらかじめ目にした数字は、それが特に意味を持たない数字であっても、その大小によって影響を与える、という実験結果があります。

事前に100という数字を書かせた被験者のグループと、1,000という数字を書かせた被験者のグループに同じマグカップを見せ、価格を予想させたところ、1,000と書いたグループの方が高い価格を予想しました。

これも、実際のビジネスに応用することができそうです。
たとえば、新製品のディスプレイの場面を考えてみてください。

世界初の家庭用フルオート洗車機CW-1という商品があるとしましょう。この洗車機の価格は100万円。この価格を安いとみるか、高いとみるか。

一緒に展示すべきは、手頃な価格のコンパクトカーではなく、高級輸入乗用車です。
当然ながら、その乗用車の価格を目立つように表示しておくことが必要です。

とはいえ、消費者にとって、今までなかったものに対する価格の妥当性は見出しにくいものです。

そこで、80万円の簡易機種CW-2という洗車機を投入してはいかがでしょうか。
この時点で、CW-1の100万円が基準価格となり、それに比べて機能面で劣るが割安なCW-2という選択肢が増えることになり、意思決定をしやすくなります。

利幅の大きいCW-1をよりたくさん販売したいと思うなら、ワックス機能を付加した最上位機種CW-DX、120万円という商品をラインアップに加えましょう。

そうすることで、上下両端を嫌う、いわゆる「松竹梅の法則」が働き、CW-1が売り上げを伸ばすと考えられます。

お客様が判断に迷ったら ――第3の選択肢を提示せよ

たとえば、以下のようなプランがあったとします。

お客様が、どちらも初めての訪問となる場合には、甲乙つけがたく判断に迷うところです。
あなたが旅行代理店で、より利益率の高いBプランを販売したいというとき、どのような提案を行うべきでしょうか。

たとえば、以下のような提案はどうでしょう。

これを見せられた時点で、お客様の意識はイタリア旅行に集中するはずです。

Cプラント比べて、わずか2万円の差で上級グレードのホテルに宿泊でき、その上食事まで付くBプランのお得感に釘付けです。

もはや、迷いの対象であったフランス旅行は対象外となっていることでしょう。

実は曖昧だった消費者の価値観

考えてみれば、これは古くから用いられてきた手法でもあります。たとえばこんな話を耳にしたことはありませんか?

ある土産物店で、5万円の民芸品がずっと売れ残っていました。店主が外出する際、留守番の店員に値札を半額にして処分するようにと言い残していきました。

店主が戻ると、店員は件の民芸品が売れましたといって店主に5万円を差し出しました。いぶかる店主が外した値札を見ると、5万円という価格の上に「半額」と朱書きされていました。お客様に、元々10万円の価値のものであるとみなされた結果でした。

実際、5万円(半額)と書かれた値札をつけた場合と、単に5万円という値札が付けられた場合、前者の方が高級であると感じるという実験結果が報告されています。

消費者の価値観とは、実はかなり曖昧なものなのです。

お客様の心に刺さる魔法の言葉 ――「無料」の魅力にはあらがえない

先の例のごとく、割引による買い得感は消費者心理を揺さぶります。
しかし、どんな値引きも「無料」の前ではひれ伏すばかり。この魔法の言葉を活用しない手はありません。

これを証明する実験に以下のようなものがあります。

合理的に考えれば、利得はAの1,000円に対し、Bは1,200円です。にもかかわらず、実験の結果、多くの方はAを選択します。これこそ、無料の魔力によるものにほかなりません。

この場合、内容は同じであるにもかかわらず、Bにより魅力を感じるでしょう。

これも、実際のコストはほぼ同じでありながら、Bの方が魅力的に感じてしまいます。

行動経済学におけるマーケターの役割

ECサイトなどをながめていると、見込み客リストを収集する手段として「無料」の文字をアピールするケースが氾濫しています。

人の興味をひく魔法の言葉ではありますが、消費者にとって不要なものはタダでも欲しくはありません。

マーケターの腕の見せどころは、いかに「無料」の価値を高めるか、とうところに尽きます。

さて、今回は価格にまつわる行動経済学の応用事例をご紹介して参りました。

行動経済学ではさまざまな実験や、マーケティングの結果集められたデータに基づき、消費行動のみならず、社会活動全般にわたり幅広い研究成果が報告されています。

だからこそ、これらの研究成果から導き出された法則を、再度ビジネスの現場におとし込むことで、大きな成果を上げることができます。

そして、この作業を主導していくのがマーケターの役割でもあるのです。

次回も、さまざまな事例や施策をご紹介して参りましょう。


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