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  • 2015-12-08

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ITを活用した先端マーケティング戦略


【第3回】NetflixとAmazonプライム・ビデオ ―データ分析競争に見るコンテンツマーケティングの未来

1.日本のVOD市場

今年、VOD(Video On Demand)市場は強力な新規参入者により、大きな転換期を迎えました。今回はそのVODサービスにおけるデータ分析の仕組みや、ビジネスモデルから見えてくるコンテンツマーケティングの未来について解説していきます。

(1)緩やかに成長するVOD市場

VODとは、インターネットを介して映画やドラマなどの様々な動画を配信するサービスのことです。日本ではNTTドコモが運営する「dTV」、NHKが運営する「NHKオンデマンド」、海外のVOD事業者が運営する「Hulu」などのサービスが有名です。

日本におけるVOD市場は、緩やかな右肩上がりの成長を見せています。成長の背景としては、モバイル通信の高速化やコンテンツを視聴するデバイスの多様化が挙げられます。

現在ではテレビやゲーム機だけでなく、スマートフォンやタブレット端末により、場所を問わず視聴することが可能となりました。一方で、市場には圧倒的なシェアを占めるサービスが存在せず、さまざまなVOD事業者が熾烈な競争を展開しています。

(2)VOD市場における競争力の源泉とは

VODサービスにおいて収益を決定する要素は、単純化すると「価格」×「会員数」×「契約期間」です。

そのため事業者にとっては獲得した会員の「契約期間をどれだけ延ばせるか」が極めて重要になります。VOD事業者がこの「契約期間」を獲得するための競争力の源泉が「レコメンデーションの仕組み」です。

レコメンデーションとは、一口で言うとオススメ機能です。
VODサービスのトップ画面などで、顧客一人ひとりの好みに合った映像コンテンツを自動で探して表示する仕組みです。

レコメンデーションはサービスを使えば使うほどその精度が高くなり、顧客にとっては利便性が高まるため、顧客をつなぎ留め他社への流出を防ぐための有力な手段となります。

<図1 VODサービスにおける競争力の源泉>

「価格」×「会員数」×「契約期間」=VODサービスの収益

(3)日本市場への2社の新規参入

今年、日本のVOD市場を揺るがす新規参入者が現れました。米国のVOD最大手「Netflix」と、世界的なネット通販事業者の日本法人「Amazon Japan」です。

Netflixは世界50カ国以上でサービスを提供し、6,500万人を超える会員を有する世界最大のVOD事業者です。この「VOD界の巨人」が、2015年9月より遂に日本でサービスを開始しました。

もう一方のAmazon Japanは、言わずと知れたネット通販の最大手。自社のネット通販利用者向けに運営する会員制プログラム「Amazonプライム」の特典として、2015年9月より「プライム・ビデオ」の名称でVODサービスを開始しました。

NetflixとAmazon Japanの2社は、前述のレコメンデーションの仕組みに必要となる「データ分析力」を強みに、日本市場に参入しました。

他のVOD事業者のサービスにもレコメンデーションの仕組みはありますが、特にこの2社はデータ分析力に大きな特徴を持っていると言えます。

2.高精度のレコメンデーションを実現するデータ分析の仕組み

(1)レコメンデーションに必要な「メタデータ」とは

VODサービスのレコメンデーションの仕組みにおいて鍵を握るのは、配信コンテンツに紐付けられる「メタデータ」と呼ばれるデータです。

まずはこの「メタデータ」と、レコメンデーションの仕組みについて簡単にご説明します。

VOD事業者は、配信する映像コンテンツに、その内容を表すキーワードのような情報を紐付けています。たとえば、「洋画」「◯◯監督作品」「◯◯主演」「アクション」などといった情報です。

これらのデータが「メタデータ」と呼ばれるもので、VOD事業者はこのデータをもとに映像コンテンツのタイプを細かく分類しておきます。

一方、ユーザー側のデータも必要となります。VOD事業者は、ユーザー自身が事前に登録している年齢、性別などの「属性情報」に加え、コンテンツの「視聴履歴」を蓄積していきます。

「視聴履歴」には、各映像コンテンツの「メタデータ」が含まれています。VOD事業者はこの「属性情報」と「視聴履歴」から、独自のデータ分析のアルゴリズムにより、そのユーザーが好む映像コンテンツのタイプを割り出します。

このようなレコメンドの仕組みにおいて、映像コンテンツごとに付与された「メタデータ」は、レコメンデーションの精度を大きく左右します。ユーザー一人ひとりへの細やかなレコメンデーションを実現するには、さまざまな切り口からの多様なメタデータが必要となります。

<図2 「メタデータ」によるレコメンドの仕組み(イメージ)>

「映像コンテンツのデータ」×「ユーザーのデータ」=2つのデータを分析し、ユーザーが好む映像コンテンツを割り出し

(2)Netflix 強さの意外な秘密とは

Netflixは精度の高いレコメンデーションの仕組みを強みとして、世界市場で大きくシェアを伸ばしてきた事業者です。そのNetflixのレコメンデーションの秘密が「メタデータ」の意外な作成方法にありました。

Netflixは1つの映像コンテンツの内容について、考えうるあらゆる事柄を「メタデータ」化しているそうです。

そこには「ジャンル」「製作年」「出演者」「監督名」など、作品パッケージから読み取れるような基本情報はもちろんのこと、登場人物のルックスや性格、登場する場所、建物、動物など、映像コンテンツの内容のすべてが含まれます。

さらに、ストーリーについては「明るさ」「悲しみ」「恐怖」「ロマンス」など、その度合いに応じて「1〜5」などの段階評価でスコアリングしているそうです。

これだけ複雑な「メタデータ」ですが、実はスタッフが映像コンテンツを一つひとつ隅々まで見てスコアリングをしていく「人海戦術」で作成しているそうです。

Netflixは、配信する数万もの映像コンテンツすべてに対してこの精緻な「メタデータ」を作成し、映像コンテンツを7万以上ものタイプに分類することで、極めて精度の高いレコメンデーションを実現しているそうです。

レコメンデーションのような先進的なデジタル技術が、裏でこういったアナログな人海戦術に支えられていたことは少し意外です。

しかし、こういったITで実現できる部分と、人が深く思考しなければ実現できない部分とをうまく融合させていくことが、データを活用したマーケティングの成功の鍵なのかもしれません。

(3)他のVOD事業者に無いAmazon Japanの優位点

もう1つの新規参入者、Amazon Japanも、Netflixとは違った観点で大きなアドバンテージを持つ事業者です。

それはデータ分析が生み出すネット通販事業全体でのシナジーです。

Amazon Japanはネット通販事業で、15年にもわたって多くの商品やサービスを日本の顧客へ提供してきた実績があります。

そのため、既に保有しているマーケットデータをもとに、顧客一人ひとりに対する精度の高いレコメンデーションの仕組みを構築することが可能です。

また、逆にこのVODサービスにより収集した新たなユーザーのデータを、書籍やグッズの販売など、ネット通販事業のマーケティングに活用することが可能となるのです。

特に、映画などの映像コンテンツは、物販との相性が非常に良いという性質があります。

実際、映画館には物販ショップが併設され、飲食物やグッズが販売されています。それと同じように映像コンテンツの販売をきっかけとして、さまざまな物やサービスを販売する機会が生まれます。

注目すべき動きとして、Amazon Japanが2015年11月19日より開始した新サービス「Prime Now」があります。

これは、Amazonプライム会員向けに、対象となる約1万8,000点の商品を、注文から1時間以内に配達するサービス* です。

これを利用すれば、たとえば、VODで観たい映画を選ぶ前にポップコーンとドリンクを注文しておけば、視聴する映画を決定して見始める頃には、家にポップコーンとドリンクが届く……というように、家の中で映画館さながらの体験が実現してしまうのです。

*2015年11月のサービス開始時点では、世田谷区・目黒区全域、ならびに渋谷区・品川区・大田区・港区・杉並区・新宿区の一部のみで提供 (エリアによっては、2時間便のみの提供)

3. VODの競争に見るコンテンツビジネスの未来

(1)レコメンデーションの高度化

ご紹介してきたようなレコメンデーションの仕組みは、今後、電子書籍、漫画、記事、情報サイトなど、あらゆるコンテンツビジネスに適用が進み、その仕組みも高度化していくと考えられます。

レコメンデーションを高度化するためにコンテンツ側に付与される「メタデータ」は、より複雑で効果的な形に進化していくでしょう。

また、本連載第2回(http://f-cast.net/1643)でもご紹介したように、ウェアラブルデバイスなどの普及により、個々人の行動データもますます豊富になり、あらゆるコンテンツビジネスで高度なレコメンデーションを展開することが可能となります。

(2)将来的に「検索」は不要に!?

今後、レコメンデーションの技術が更に高度化し、あらゆるコンテンツビジネスに浸透した場合、現在多くの人がインターネットで情報を集めるうえで必ず行う「検索」の必要性が薄れていくでしょう。

実際、「Gunosy」や「NewsPicks」に代表されるキュレーションマガジンのように、個人の好みに応じたニュース記事を配信する仕組みが、多くのユーザーから支持を集めていますが、これらはスマートフォン上でアプリを立ち上げるだけで自分の好みに合った記事が見られるため「検索」という行為を必要としません。

近い将来、「検索」が不要になると言うと少し大げさではあります。しかし、コンテンツを提供する側にとっては、今後はSEOなどの「検索」対策だけでなく、レコメンデーションの仕組みによってどうユーザーにリーチするか、ということが大きな論点になっていきそうです。


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