• 連載
  • 2015-11-16

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ITを活用した先端マーケティング戦略


【第2回】新たなビッグデータを生み出すウェアラブルデバイス ―普及に向けた課題とは

1. 急激に成長するウェアラブルデバイス市場

(1) ウェアラブルデバイス市場の現在と今後

この20年で情報端末は驚くべき進化を遂げてきました。1990年代中頃から2000年代中頃にかけては、PCや携帯電話が急速に普及し、一人1台持つようになりました。

さらに2010年代に入ると、スマートフォンやタブレット端末などが登場。2015年の現在では、殆どの人がこれらを持ち歩く時代となりました。こういった情報端末の進化は、今後もまだまだ続くと考えられます。

では今後、情報端末はどのように進化していくでしょうか。

1つの方向性が「ウェアラブルデバイス」と言われる形態です。ウェアラブルデバイスは、2012年頃に米Googleによる「Google Glass」などの試験的な製品が登場して以来、現在に至るまでに多くの企業から様々なタイプのデバイスが発売され、市場は急速に拡大しています。

マーケティング・リサーチを行うMM総研が発表した調査レポートによると、日本におけるウェアラブルデバイスの市場規模(販売台数)は、2013年度に40万台であったものが、2015年度は134万台、2020年度は573万台に拡大すると予想されています。

<図1 日本国内のウェアラブルデバイス市場規模(販売台数)>

出典:(株) MM総研 [ 東京・港 ] ニュースリリース 2015.2.5 日米におけるウェアラブル端末の市場展望――日米消費者調査の結果から

(2) 多様な種類のウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスとは、スマートフォンのように演算、通信、表示などのコンピュータとしての機能を持つデバイスで、その名の通り「身につけることができる」情報端末のことを指します。ひとくちにウェアラブルデバイスと言っても、メガネ型や腕時計・リストバンド型、シャツ型など、形態は多岐にわたります。

(3) スマートフォンからは取ることができない! 新たなデータ「動作」「体調」「感情」

この5年間で急速に広まったスマートフォンは、マーケッターにとって多くの有用なデータを生み出しました。

例えば、SNSやゲームなどのアプリを通じた個人の嗜好や行動に関するデータ、GPSやBeaconの仕組みを活用した位置データなどです。

ウェアラブルデバイスは、機能的にはスマートフォンと似たようなものと考えられがちですが、生み出す「データ」の観点からすると、これらは大きく異なります。

ウェアラブルデバイスは、スマートフォンからは取ることができないマーケッターにとって非常に有用な新たなデータの取得を可能にします。新たなデータとは、「1)動作」「2)体調」「3)感情」の3つです。

1)動作

メガネ型のウェアラブルデバイスでは、センサーにより着用者の視線の動きをデータとして取得することが可能です。また、腕や足など体に装着するウェアラブルデバイスでは、スポーツなどにおける体の細かい動きをデータとして取得できます。

2)体調

体に密着するウェアラブルデバイスでは、体温や血流などをデータとして取得することが可能です。これにより着用者の疲労度や生理現象のリズムなど、健康状態までも分析することができるのです。

3)感情

更に、体や頭部に装着したウェアラブルデバイスから心拍数や脳波などを検知することで、着用者の感情までもデータ化することが可能になると言われています。

<図2 ウェアラブルデバイスの種類と取得可能データ>

2. ウェアラブルデバイスが進化させるマーケティング

新たなデータで向上するセグメンテーション・パーソナライズの精度

ウェアラブルデバイスは従来取得できなかった新たなデータを生み出すことで、マーケティングにおけるターゲットセグメントや顧客一人一人の特徴を、より精細なものにします。

今回はそのデータ活用の試みについて、特に有望な2つの分野をご紹介します。

1)ヘルスケア事業における試み

ヘルスケアは、ウェアラブルデバイスによる新たなデータの活用で大きな変革が期待されている分野です。ウェアラブルデバイスを活用することで、顧客の体温、心拍数、睡眠時間、血流などに関するデータを収集・分析し、リアルタイムに個人の健康状態を把握することや、病気の兆候などを発見することもできるようになります。

保険業界はこれらのデータのマーケティングへの活用に積極的です。

日本生命保険は2015年5月に野村総合研究所との資本・業務提携を発表。野村総合研究所が持つ先端情報技術を活用し、ウェアラブルデバイスやビッグデータなどを活用した新たなビジネスモデルの研究を進めています。

こういった取り組みにより、今後、顧客一人一人の健康状態に合わせた最適な保険プランの提案や、健康状態が良好な保険契約者に対する保険料の割引など、より細かいターゲットセグメントや顧客一人一人に応じたマーケティングによるビジネス展開が期待されています。

2)テーマパーク・イベント事業における試み

テーマパークやイベント事業などにおいても、ウェアラブルデバイスを活用した先端マーケティングについて積極的な検討が進められています。

米国のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでは、直営ホテルの宿泊者向けに、RFIDが組み込まれた「マジックバンド」(Magic Band)と言われるウェアラブルデバイスを配布しています。

顧客はパーク内で「マジックバンド」をリーダーにかざすだけで、ファストパスの利用やクレジットカードと連動した支払いができる便利な仕組みです。

一方で、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート側は、顧客の回遊ルートや滞在時間、購入物品など精緻な行動パターンを把握することで、顧客一人一人との関係性を更に深めたマーケティングを展開できます。

これらの仕組みは、今後、感情分析の機能と組み合わせることで更に発展していくことが予想されます。顧客一人一人の視線や感情(心拍数など)のデータを取得することで、テーマパークやイベント会場内の顧客がどこに注目し、どのような心理状態になったかなど、よりリアルで緻密なデータに発展させることが可能になります。

3. 普及に向けた大きな課題

(1) 供給者の視点ではメリットは大きい。足りない利用者の視点

ここまでご紹介してきた通り、供給者=マーケッターの視点で見ると、ウェアラブルデバイスはマーケティングを大きく進化させる素晴らしい仕組みです。しかし今後、ウェアラブルデバイスがスマートフォンと同じように誰もが持つまでに普及するためには、2つの大きな課題があります。

1)プライバシー保護の課題

ウェアラブルデバイスの普及に向けた課題の1つ目は、プライバシー保護の問題です。

ウェアラブルデバイスにより取得されるデータの内容や事業者による活用の範囲など、利用者にはプライバシー侵害の不安がつきまといます。

データ活用に関する法制度の整備や利用者の理解が進まない状況は、ウェアラブルデバイスの普及に大きな障壁となるでしょう。

こうした障壁を減らすための動きも出てきています。

2015年9月、改正個人情報保護法が成立しました。改正による幾つかの変更点の中に、個人のプライバシーを保護しつつマーケティングへのデータ活用を促進することを目的としたものがあります。

「匿名加工情報」に関する取り決めの追加です。「匿名加工情報」とは、収集された個人情報から氏名・住所などを削除したり別の情報に置き換えたりすることで、個人を特定できない形に加工された情報を指します。

事業者は、この「匿名加工情報」であれば、情報漏洩対策などの安全管理措置を前提として、個人の個別の同意がなくとも、第三者への提供やデータ活用を行うことができます。

このような法制度の改正など、個人のプライバシーを保護しつつ事業者がマーケティングにデータを活用するための下地作りが徐々に進んでいます。

<図3 匿名加工情報のデータ加工、第三者提供のイメージ>

2)ファッション性の課題

普及に向けた課題の2つ目は、ファッション性です。

ウェアラブルデバイスがスマートフォンのように爆発的に普及するためには、利用者が進んで「身につけたい!」と思うような魅力がまだまだ足りません。黎明期のウェアラブルデバイスは、機能の実装を主に追求してきたためです。

しかし、今年に入り各社から「ファッション性」を意識したウェアラブルデバイスの市場投入が始まりました。

米Appleは時計型ウェアラブルデバイス「Apple Watch」の新モデルとして、ファッションブランド「Hermès」とのコラボレーションモデルを発売。よりファッション性を重視した商品展開を進めます。

また、メガネチェーンのジェイアイエヌエス(JINS)は、自然でオシャレな形状のメガネにセンサーを搭載したウェアラブルデバイス「JINS MEME(ミーム)」を2015年11月に発売することを発表しました。

このように、ウェアラブルデバイスのトレンドは明らかに「ファッション性」を重視する方向へシフトしています。

(2) 当面はクローズド領域で利用が拡大

ウェアラブルデバイスの爆発的な普及には障壁が多いため、まずは企業内や会員組織、テーマパーク内など、クローズドな領域での活用が中心になると思われます。

ウェアラブルデバイス スマートウォッチイメージ

しかし、普及に向けたこれらの障壁を越えるブレークスルーがあったとき、企業のマーケティングの在り方も大きく変貌することでしょう。事業者は、来るべきそのときに備え、データを活用したマーケティング技術を今から磨いておく必要があるかもしれません。


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