• 連載
  • 2015-10-19

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マーケティングの現場から


【第1回】データ分析手法を学ぶ(前編) ―データベース・マーケティングの本質とは

マーケティングは学ぶものでも語るものでもなく、日々の企業活動において実践してこそ意味のあるものです。本連載では、コンサルタントとして活動する現場での事例を基に、マーケティングの思考法を紹介していきます。

データベース・マーケティングの変遷と課題

第1回のテーマはデータベース・マーケティング。私のデータベース・マーケティングとの関わりは古く、1980年代後半、まさにデータベース・マーケティング黎明期のことでした。

黎明期におけるデータベース・マーケティングの手法 ――試行錯誤の連続

0120で始まるNTTのフリーダイヤルサービスが始まり、設立間もないNTTテレマーケティング株式会社(当時)にサービス改善提案をしながら、試行錯誤で始めたのはついこの間のことのようです。

手法は極めてシンプルで、さまざまな媒体広告の出稿、PR活動などを通じてフリーダイヤルからの資料請求へのアクセスを集め、そこから第一次見込み客に対しカタログを送り、イベント招致のDMを送ったり、営業活動でのアプローチを行い、その結果得られた情報を手入力で記録したりするものでした。出力されるデータも、2項目のクロス集計レベル。それらを寄せ集めて分析していくという地道な作業でした。

今日では考えられないような原始的な手法ですが、そこには、たった1本の資料請求電話から、年齢や職業、家族構成や趣味に至るまでをヒアリングするオペレーターの高度なノウハウがありました。その結果、分析データに基づいて送ったイベント招致DMのレスポンス率が10%(0.1%ではありません!!)を超えるなど、大きな成果に結びついていたのです。

ITの飛躍的進歩とデータベース・マーケティング ――現在の課題

その後、インターネット社会の到来と情報技術の飛躍的な進歩により、質的にも量的にも、当時とは全く別次元の情報が集積され、複雑な処理を施されたデータがいとも簡単に出力できるようになりました。まさに、隔世の感があります。

さらに昨今、ビッグデータなる用語がネットや紙面を賑わし、次世代の意思決定ツールとして注目を集めています。私自身、その応用可能性については大きな期待をもっています。

しかし一方で、一般企業におけるデータの活用場面を考えると、決まってある課題に行きつきます。それは、何のためのデータ活用か、という原点の発想が希薄である点です。

情報処理ツールや情報処理・分析サービスを展開するハードウェア・ソフトウェアメーカーの開発者にとっては、次々と新しい機能を打ち出し、あれもできます、これもできますと売り込みたいところでしょう。

一方、ツールやサービスの利用者からしてみれば、本来であれば、「自社の戦略上、このようなデータが必要だ」という発想が先にあるべきなのです。あれができる、これができるという開発者サイドの発想でツールやサービスを導入し、そこから出力されるデータに合わせて戦略を立てるのでは本末転倒です。

残念ながら、ツールやサービスありきでデータをあつかってしまっていることが、かなりの頻度で見受けられます。
その最大の原因は、データ分析ができる人材の不足にあるといえるでしょう。ITの知識やデータの処理方法に精通していても、肝心の分析能力が無ければ、そもそも必要なデータを特定することができませんし、データから課題を抽出し、戦略を構築することも難しくなります。

実際、ITの飛躍的な技術進歩とは裏腹に、データ分析のスキルやそれを備えた人材の数は、まだまだ需要に追いついていないように思います。とりわけ、中小企業においては、この分野の人材不足は深刻です。ツールやサービスありきの発想は、サイズの合わない服に身の丈を合わせようとするようなものであり、期待したシルエットは望むべくもありません。

まずデータをあつかうだけのスキルを備えた人がいて、次に必要なデータの特定があり、必要なツールやサービスの導入は最終段階とするのが本来あるべき順序なのです。

データベース・マーケティングに必要なスキルとは

では、データ分析に必要なスキルとはどのようなものなのでしょうか。

データ分析に必要なのはITスキルではありません。必要なのは、文字や数字の羅列の中から、課題を見つける能力です。そのためには、事業戦略や経営方針に精通し、常に問題意識をもって客観的に物事を判断する力が求められます。かつて鉛筆をなめながら事業計画を作成していた、パソコンが苦手なベテラン社員が適材、ということだってあるのです。

同じデータを見ても、そこから何も見出せぬ人もいれば、課題を発見する人もいます。課題を抽出するために、データを加工する人もいます。実のところ、何らかの課題を見出そうという姿勢こそが最も重要な素養といえるのです。「何も課題が見出せない」ということ自体が課題であってもよいのです。いかにデータと向き合い、対話するかで、初めて見えてくることがあるはずです。

データ活用の有効性は、活用する人次第 ――カーネマンとトベルスキーの実験

データを有効に活用するためには、活用する人の持つ視点や能力がいかに重要であるかということを実証した実験があります。

ノーベル経済学賞受賞者カーネマンとトベルスキーによる次の実験では、データは見る者や見方によって、正反対の対処法が導き出される可能性がある、ということが示されています。

600人の死亡が予測されるという病気に対し、次の(1)、(2)の対策が検討されています。それぞれについて、A・BまたはC・Dのどちらを選びますか?

(1)
A: 200人が助かる
B: 3分の1の確率で全員助かるが、3分の2の確率で誰も助からない

(2)
C: 400人が死ぬ
D: 3分の1の確率で誰も死なず、3分の2の確率で全員が死ぬ

この実験では、上の(1)、(2)を学生に質問したところ、(1)ではAが72%、Bが28%、(2)ではCが22%、Dが78%という結果になりました。冷静に考えれば、AとC、BとDは同じ事実を言い換えているに過ぎないにもかかわらず、結果は正反対となったのです。

これは、行動経済学において「フレーミング効果」と呼ばれるもので、助かるというポジティブな視点に立つか、死ぬというネガティブな視点に立つかによって判断基準が変わってしまうのです。

同じデータを見ても、そこから導き出される対処法は、見る人によって大きく異なり、また、表現の仕方によって、全く別の対処法を考えてしまうこともある、ということを端的に示しています。

ですから、先入観をもってデータ分析に臨めば、実態にそぐわない対処法が導き出されたり、単に自身にとって都合のよい施策を打ってしまったりすることがあるのです。だからこそ、多面的な洞察力と、客観的な判断力が求められるのです。

正しいデータ活用方法を知る ――オリジナルブランド雑貨メーカーの事例

ここで一つ、データの活用方法を変えたことで業績を回復・拡大させた企業の事例を紹介しましょう。

地方都市に本拠を構える、とあるオリジナルブランド雑貨の製造・販売を行う企業。東京に進出し、店舗を構えて3年目。出店当初こそ、そこそこの売り上げがあったものの、やがてジリ貧状態となり、赤字が続いていました。決算書を見ても不採算は明白であり、会計事務所やメインバンクからも「撤退すべし」と勧告を受けていました。東京からの撤退はブランド発展の可能性を失うことになると危惧するオーナー・デザイナー。

ヒアリングの結果、約1万件の顧客リストと購買データがあるとのことでした。問題は、そのデータを有効に活用できていなかった点です。

正しいデータの収集方法 ――手持ちのデータを活かして必要なデータを収集する

これだけのデータがあれば充分な分析が可能であると判断し、郵送方式による顧客アンケートを実施しました。

ポイントは、2種類のデータを組み合わせた点にあります。購買データから顧客を階層分けして集計したことで、ブランドとの距離感に応じた顧客の購買行動の将来予測を立てられたことです。設問から集計フォーマットまでを作成し、入力はアルバイトを使っての手作業で実施したことで、費用面での課題もクリアしました。

このような手作り感あふれる手法でも、そこから得られたデータはまさに宝の山となります。

正しいデータの分析方法 ――分析結果を戦略に落としこむまで

収集したデータを集計していく中でまず驚いたのは、顧客のブランドに対する愛着度の高さでした。どの顧客も、ブランドの最新情報を求めていたのです。そして、「少し背伸びしたい」という中間所得層の顧客像が浮かび上がりました。正に、顧客のライフスタイルから購買意欲まで明らかになったのです。

また、東京店の購買データを見ると、客単価が本店の2倍近くあり、新客比率が70%以上を占めていました。本店の売上における既存客比率は約70%ですから、今後の展開次第では、むしろ東京店の方に伸びしろがあるとの判断ができます。

そこで、ブランド強化のための施策とともに、ほぼ月1回のペースでの新作発表とDMでの告知による既存顧客へのアプローチ、雑誌とのタイアップ広告による新規顧客の獲得を試みたのです。

媒体評価は客観的に判断できるので、より効率の高いものにシフトしていきます。購買履歴やパーソナルデータが蓄積されるにつれ、商品企画にも反映できます。よりタイムリーに対策が講じられるので、ユーザーとの距離も近づいていきます。

こうした好循環が作用して、東京店は半年で黒字化を実現、全社的にも2年で売上が倍増しました。さらに、広告宣伝費の効率化が寄与したことで、利益率も大幅に向上したのです。東京店の売上は本店を凌ぐ規模となり、拡大移転してブランドの旗艦店となりました。

これらすべては、僅か1万件の顧客リストと購買データの分析結果から導き出された戦略によるものです。

もし、このようなデータが無ければ、あるいはデータを使った追加のリサーチを行わなければ、決算書の数字を基に東京店は撤退していたことでしょう。その後の発展も望めなかったはずです。

データを活用することの効果は、規模の大小ではなく、それをどう扱うかにかかっています。情報の取捨選択をするのも人、いかにして収集するかを考えるのも人、出力すべきデータを特定するのも人、出力されたデータを分析するのも人ならば、それをベースに戦略立案するのも人であるということこそ、データベース・マーケティングの最も重要なポイントなのです。


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