• 連載
  • 2015-10-05

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ITを活用した先端マーケティング戦略


【第1回】 注目のIoT ―データ分析で変わるマーケティング

急速に広がるIoT

(1)2015年はIoT元年

2015年のIT業界では「IoT」が注目のキーワードとなっています。IT関連のさまざまなイベントでメインテーマとしてあつかわれ、IBM、Intel、NTT、SoftBankなど、多くのIT関連事業者が、経営戦略の中でIoTについて言及しました。一部の先進的な企業ではIoTの導入により成果をあげた事例が出てきており、まさに今年はIoT元年と言えるでしょう。

IoTは単に生活や企業活動の利便性を高めるだけでなく、企業のマーケティング活動をも大きく変えてしまうものです。今回はそのIoTがもたらす、マーケティングの変革について解説していきます。

(2) IoTとは

そもそも、IoTとは何かについて説明します。IoTは「Internet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット」などと訳されています。PCやスマートデバイスだけでなく、工場の設備や電化製品、車、医療機器など、あらゆるモノがインターネットにつながることで、そのモノ自体を制御したり、モノの状態をデータとして収集・分析したりする仕組みです。

IoTでは、対象とするモノに通信モジュールを組み込むことで、Wi-Fiやモバイルネットワークなどを通じてインターネットに接続します。インターネットを介して接続する先はクラウドやデータセンター。そこでモノの制御やデータ収集、分析などを行います。

IoTの仕組みイメージ

(3)なぜ今IoTなのか

今、各社のIoTへの取組みがとりわけ加速しているのはなぜでしょうか? 大きく分けてふたつの理由があげられます。

ひとつはモバイルネットワーク環境の充実と低価格化です。高速・大容量通信が可能なLTEネットワークが全国に張り巡らされ、あらゆる場所での安定したインターネット接続環境が整ってきました。また、MVNO(仮想移動体通信事業者)の台頭などにより、通信事業者同士の競争環境が激化。ここ数年で通信料金の低価格化が大幅に進みました。

もうひとつの理由は、クラウドコンピューティングの発達です。IoTでは、対象のモノから収集する膨大なデータを蓄積し、分析するシステムが必要になります。昨今、Amazon Web Servicesを筆頭に、低価格で高性能なコンピュータを世界中のどこからでも利用できるクラウドサービスが急速に普及してきました。

こうした環境の変化により、企業がIoTを導入するハードルが劇的に下がり、現実的な選択となってきたと考えられます。

IoTは企業のマーケティングをどう変えるのか

(1)IoTがもたらすマーケティングの変革

IoTは単にIT関連企業だけでなく、多くの業界から注目を集めています。それは、IoTが企業のマーケティングの在り方を大きく変えてしまうほどのインパクトを持つものだからです。これから、IoTが企業のマーケティングにどのような変化をもたらすかを、顧客視点のマーケティング・ミックス(4C)の観点から、事例を交えながら紹介していきます。

マーケティング・ミックス×IoT

(2)Customer Value(顧客にとっての価値)における変化と事例

Customer Value(顧客にとっての価値)とは、製品やサービスから顧客が得る機能や利点(メリット)のことです。企業の視点からすると、販売する製品やサービスそのものと言ってよいでしょう。IoTの仕組みは、顧客へ新たな価値を提供する機会を創出するものです。

金融、航空機、医療機器などを手掛ける米ゼネラル・エレクトリック(GE)社は、自社の製造業としてのビジネスにIoTを積極的に取り入れています。GE社は自社が製造する航空機のエンジンにセンサーと通信モジュールを組み込むことで、販売後のエンジンの使用状況や、性能に関するデータを収集・分析する仕組みを導入しました。

この仕組みにより収集した膨大なデータを分析することで、航空会社に対し、より燃料効率の良い運行ルートを提案するなどのコンサルティングサービスを提供したり、機械の故障を予知して、より最適なタイミングでメンテナンスサービスを提供したりするなど、新たな価値を顧客に提供しています。

このように、IoTの仕組みとデータ分析を活用することで、従来のモノやサービスの販売に加え、新たなCustomer Valueを創出することが可能となってくるのです。

(3)Cost to the Customer(顧客のコスト負担)における変化と事例

Cost to the Customer(顧客のコスト負担)とは、顧客が製品やサービスに支払う対価のことです。企業側の視点で言うと、プライシングになります。IoTは顧客の対価の支払い方にも変化をもたらします。

タイヤの製造・販売を手掛けるミシュラン社は、自社のトラック・バスタイヤにセンサーを組み込むことで、タイヤの走行距離に応じて使用料を課金するという新たなモデルのビジネスを展開しています。

従来は自動車の使用頻度にかかわらず、それぞれのモデルごとに一律の価格で販売していたタイヤを、まるで携帯電話の料金のように、実際に利用したボリュームに応じて対価を支払ってもらうサービスとして提供するのです。こうした新たな対価の支払い方は、買い手企業のキャッシュフローを大幅に改善させるかもしれません。

(4)Convenience(流通の利便性)における変化と事例

Convenience(流通の利便性)とは、顧客から見た製品・サービスの享受のしやすさのことで、欲しいと思った時にいかに早く、簡単に手に入れることができるか、ということを指します。IoTの仕組みはこの流通の利便性にも大きな変化をもたらします。

関東を中心にチェーン展開するスーパーマーケットのベイシア社では、店内にセンサーを配置することで、顧客の店内の回遊状況をリアルタイムにデータとして収集する仕組みを一部店舗で導入しています。ベイシアでは、これらのデータを分析することで、レジの混雑状況を予測して人員の最適配置、レジ混雑の防止を行うなど、顧客のストレス軽減を実現しています。

(5)Communication(コミュニケーション)における変化と事例

Communication(コミュニケーション)とは、売り手と買い手の相互のコミュニケーションのことで、売り手の企業から見た広告などのプロモーション活動やブランディングを指します。IoTの仕組みは顧客とのコミュニケーションを、より個人に対して最適化したものに変えていきます。

テニス用品の製造・販売を手掛けるバボラ社は、センサーを埋め込んだラケットの販売を開始しました。センサーによって打球データを収集することで、プレイヤー自身がそのデータをスマートフォンなどで視覚的に確認して、自身のスキル向上に役立てることができます。

また、今後期待される展開としては、メーカーや販売店側がこのデータを分析することで、利用者個人に合った製品やサービスを提案することが考えられます。顧客にとっては、その商品を使えば使うほど、自分の好みや傾向により合致した製品やサービスを提案してくれるわけですから、ますますその売り手との関係が深まっていきます。

このように、IoTは顧客のブランドロイヤリティを高める有力なツールとなり得るのです。

IoTでビジネスチャンスをつかむ

(1)中小企業にもチャンスをもたらすIoT

紹介してきた事例から分かる通り、IoTの仕組みを用いることで企業のマーケティング・ミックスを、顧客にとってより最適なものに変えていくことができるのです。規模が小さい中小企業でも、IoTの仕組みを活用することで、顧客との強力なつながりを築き上げ、大手の企業にも負けない競争力を生み出すことが可能になるでしょう。

(2)一般企業の積極利用に向けた課題

IoTは規模の大小を問わず、企業のマーケティングを変え、チャンスを生み出すことができますが、さらに多くの一般企業の利用のためにはまだ課題があります。

課題のひとつとしてあげられるのが、センサーや通信モジュールのコストです。センサーや通信モジュールは普及により低価格化の傾向にありますが、さまざまな機器にこれらを組み込むためのコストは、企業にとって大きな負担となるでしょう。

また、IoTの仕組みを導入するためのさまざまな知識やデータ分析の手法・ノウハウも大きな課題のひとつです。IoTの仕組みを構築し運用するためには、センサーや通信モジュールなどを含めた組み込みシステムなどについての知識が求められますし、収集した膨大なデータを分析し、具体的で有効なマーケティング施策を導き出す手法やノウハウについても、幅広い知識と経験が必要となります。

(3)鍵を握るパートナリングとエコシステム

IoTやデータ分析の効果を最大化していくためには、顧客についてより大量の、より幅広い種類のデータを得られる方が、精度の高いマーケティング活動につながります。多様な分野で事業を展開するコングロマリット型の大企業であれば、自社単独でこういったデータをそろえることができるかもしれませんが、多くの中小企業にとっては簡単なことではないはずです。

そこで、鍵を握るのは他事業者とのパートナリングです。例えば、地域の商店街などにおいて、各店舗が共通のシステムやデータ分析手法を用いて、その商圏全体へ影響をおよぼすようなエコシステムを形成できれば、大手の量販店やECプラットフォームにも負けない価値を生み出せる可能性がありますし、その街全体の経済の活性化にもつながります。

また、複数の事業者が共同でIoTの仕組みを導入することで、コストも軽減できますし、データ分析手法の開発やノウハウの蓄積についても、単独で行うよりも効率的と言えます。

IoTは、単なるテクノロジーの進展の延長ではなく、多くの企業に新たなビジネスチャンスを与えるものです。この仕組みを積極的に活用することで、多くの日本企業に沢山の成功事例を生み出してほしいです。


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